エビデンスベースの抱っこの話①

エビデンスベースの抱っこの話①

2025年10月22日

ベビーウェアリングによる親子の心身への影響|研究レビューの紹介

Babywearing Practices and Effects on Parental and Child Physical and Psychological Health(Norholt et al., 2022

はじめに

ベビーウェアリング(赤ちゃんを抱っこ紐やスリングで密着して抱くこと)は、日常的な育児の中で自然に行われている行為ですが、近年はその心理的・身体的な効果が研究としても注目されています。

今回ご紹介するのは、Norholtらによる2022年のシステマティックレビュー
“Babywearing Practices and Effects on Parental and Child Physical and Psychological Health”
(米国:Juniper Publishers, American Journal of Pediatrics and Neonatal Care)です。
この論文では、複数の研究結果を整理し、ベビーウェアリングが親と子の双方にどのような影響を与えるか、多角的に検討した総説であり、臨床・支援現場での指導においても示唆に富む内容です。

研究の目的と概要

本レビューの目的は、ベビーウェアリングが次の点について、どのような影響があるかを整理することにあります。

  • 親子の愛着形成(attachment)
  • 乳児の行動的特徴(泣き、睡眠リズムなど)
  • 親の心理的健康(産後うつ、不安、ストレス)
  • 乳児の身体的発達(股関節、頭蓋形状など)

著者らは過去数十年の文献を対象に、臨床研究・観察研究・比較研究などを横断的にレビューしています。対象となった研究の多くは、健康な正期産児とその保護者を対象としています。

注意すべき点

このレビューは既存研究の統合を目的としていますが、以下のように注意すべき点があります。

  • 研究間でデザイン・定義・介入内容が異なり、直接比較が難しい。
  • 多くが観察的研究であり、因果関係の確定はできない
  • ベビーウェアリングの「量」(1日の抱っこ時間や頻度)や、「質」(密着度・姿勢・使用方法)によって結果が異なる可能性がある。
  • 安全な抱っこの実践(呼吸確保、顔が見える姿勢、骨盤支持など)が前提である。
日本ベビーウェアリング協会では安全な抱っこ(事故を防ぐ抱っこ)親子双方の健康を守り発達を促す抱っこ親子の絆形成を促し心を育む抱っこを周知啓発していきたいと考えて…
babywearing.or.jp

主な結果と示唆

1.親子の愛着形成の促進 💕

複数の研究で、ベビーウェアリングを日常的に実践する群では、乳児‐保護者間の**安全型愛着(secure attachment)**が有意に多く形成されていました。
特に柔軟性のあるキャリア(SSC(バックルタイプの抱っこ紐)、スリング等)を使用した群でこの傾向が強く見られています。
皮膚接触(Kangaroo Care)や視線・体温の共有など、感覚的なフィードバックの増加が寄与していると考えられます。

2.泣きの減少と睡眠リズムの安定 💤

抱かれる時間が長い乳児群では、1日の総泣き時間が短縮する傾向が報告されました。
また、抱っこの頻度が高い群で、睡眠‐覚醒リズムの安定化が示されています。
これは、自律神経系の調整や、保護者の即時的な対応(レスポンシブな関わり)が容易になることが関係していると推察されます。

3.親のメンタルヘルスへの好影響 🌱

母親を中心に、ベビーウェアリングを実践する群では、産後うつ症状や不安の軽減が見られた研究が複数あります。
これは、抱っこを通じた身体的接触がオキシトシン分泌が促進される傾向が見られ、ストレス反応を緩和することに寄与する可能性が示唆されます。

このことから、産後メンタルヘルスケアの一環」としてのベビーウェアリングの可能性に期待されています。

4.父親の育児参加の促進 👨

父親がベビーウェアリングを取り入れることで、乳児との関わりが増え、育児への自信・関与意識の向上がみられたとの報告があります。
家庭内での育児分担や父子の関係構築における有用性が示唆されます。

5.発育性股関節形成不全・頭蓋変形を防ぐ身体的発達への寄与 🦴

股関節の健全な発達

適切な姿勢での抱っこは、発育性股関節形成不全(Developmental Dysplasia of the Hip)のリスク低減に寄与する可能性。

頭蓋変形の予防

抱っこの頻度が高いほど、仰向け睡眠による位置性頭蓋扁平(Positional Plagiocephaly)の発生率が低下する傾向が示されています。

これらはいずれも、姿勢保持と重力刺激の多様性が影響していると考えられます。

参考文献

Norholt, H., Phillips, R., McNeilly, J., & Price, C. (2022).
Babywearing Practices and Effects on Parental and Child Physical and Psychological Health.
American Journal of Pediatrics and Neonatal Care, 11(2): 555876.
https://juniperpublishers.com/ajpn/AJPN.MS.ID.555876.php

実践への示唆

ベビーウェアリング支援の現場からの見解

この論文は、私たちベビーウェアリングコンサルタントが日々の支援の中で感じている「抱っこを通じた安心感」「親子の信頼関係の深まり」を科学的に裏づけてくれる内容でもあります。
ベビーウェアリングは単なる「移動手段」ではなく、親子双方の健康と発達を支える行為であるという点が、研究からも改めて示されています。

具体的には…

  • 抱っこ紐の安全で快適な使用指導を行うこと
  • 抱っこがもたらす心理的・身体的効果を理解したうえで、保護者に安心感を伝えること
  • 父親を含む家族全体で、抱っこや抱っこ紐の使用に関する情報を共有すること

これらを行うことで、親子の絆を深め、育児ストレスを軽減に寄与し、延いては、育児支援の質を高めるために、低コストで有効な実践的アプローチではないでしょうか。

また、抱っこがしんどくなっている方々に向けては、「抱っこ=大変」が当たり前ではなく、SOSを出すことで、もう少し負担を軽減できる可能性があること知ってもらえたらと思います。

将来的には、養育者から動かなくても、誰もが知っている、当たり前の情報として届けられるよう、活動を続けていきたいと思います。

ベビーウェアリングコンサルタントとしての提案

地域や、子育て支援の他職種連携の輪に加えていただき、ベビーウェアリングが地域社会や保健医療政策に貢献できる機会を頂けたら嬉しく思います。

具体的には、自治体や、産科、助産院での「両親学級でのベビーウェアリング講座」の開催や、必要な養育者の方への協働支援です。地域の育児支援プログラムにベビーウェアリングを組み込むことで、親子の絆を深め、育児ストレスを軽減する可能性があるのではと考えています。

ベビーウェアリングコンサルタントとの協働に関心を持たれたら

抱っことおんぶとその道具-ベビーウェアリング大阪-では、自治体や、医療機関、イベントでの抱っこの教室を受託しています。どうぞお気軽にご連絡ください。

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また、全国にベビーウェアリングの専門家がいます。ぜひお近くのコンサルタントと繋がっていただけたらと思います。

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